最近、20代の投資が珍しいものではなくなってきました。
NISAで積立投資を始める。投資信託について調べる。SNSで「毎月いくら積み立てているか」「資産がいくらになったか」という投稿を見る。
少し前まで、投資は「お金に詳しい人がするもの」という印象もありました。しかし今は、若い世代の日常に少しずつ入り込んでいます。
もちろん、その背景にはNISAの拡充やスマホで投資を始めやすくなったことがあります。
ただ、もう一つ見逃せない変化があります。
それは、「投資している他人」が以前より圧倒的に見えるようになったことです。
「あの人はもう始めている」
「同年代なのに資産形成している」
「自分だけ何もしていなくて大丈夫だろうか」
ここで生まれているのは、単純な「儲けたい」という欲望だけではありません。
今回は、20代の投資参加を入口に、SNS時代のFOMO――「取り残されたくない」という感覚が、なぜ人を動かすのかを考えてみます。

いま何が起きている?
投資そのものが、社会の中でかなり身近な行動になっています。
金融庁が2026年10月2日に公表した最新データによると、NISA口座数は2026年6月末時点で3,048万口座。累計買付額は85兆円に達しています。2023年末の口座数は2,125万口座だったため、新NISA開始後も利用者が大きく増えていることが分かります。
若い世代について興味深いのが、日本証券業協会による新NISA利用者の調査です。
2024年にNISA口座を開設した人は若年層ほど多く、特に20代以下でその傾向が目立ちました。また、利用開始のきっかけでは「SNSやインターネットで情報を見た」が多く、若年層ではネットや周囲から受ける影響が比較的大きいことも示されています。
別の2025年の国内調査でも、20~30代が投資に興味を持ったきっかけとして「SNSの情報」が挙げられています。
つまり変わったのは、投資制度だけではありません。
投資を知る場所そのものが変わったのです。
かつて投資情報といえば、新聞、経済番組、金融機関、専門誌などが中心でした。
いまはSNSを開けば、同年代の人の積立額や運用結果、家計管理、節約術、NISAの使い方まで流れてきます。
投資が「遠い金融の話」ではなく、隣にいる人がすでにやっている行動として見えるようになったのです。
なぜ「投資しなきゃ」と思ってしまうのか?
ここで重要なのは、SNSが単に投資の知識を増やしただけではないことです。
SNSは同時に、比較する相手も増やしました。
たとえば一人で銀行口座の残高を見ているだけなら、
「今月も少し貯金できた」
で終わるかもしれません。
しかしSNSを開いた瞬間、
「24歳、資産300万円」
「新NISA満額積立」
「20代で1000万円達成」
といった他人の数字が視界に入ります。
すると、自分の100万円は単なる「100万円」ではなくなります。
他人と比べた100万円になります。
「得したい」より「遅れている」が気になる
FOMOは「Fear of Missing Out」の略で、「自分だけ機会を逃しているのではないか」という不安を表す言葉です。
投資の場合、「上がる株を買い逃した」という場面だけに起きるわけではありません。
もっと静かなFOMOがあります。
周囲が資産形成を始めている。
↓
自分はまだ何もしていない。
↓
このままだと数年後に差がつくかもしれない。
↓
何もしないことまでリスクに感じる。
↓
とりあえず自分も始めたくなる。
この流れです。
海外の調査でも、若い投資家にFOMOやSNSが影響していることは確認されています。英国FCAの調査では、18~40歳の若い投資家の51%がFOMOによって当初予定していた以上の金額を投じた経験があると回答しています。
ただし、ここから「若者はFOMOで投資している」と決めつけるのは早すぎます。
長期の資産形成を目的に合理的にNISAを利用している人も当然います。
ManiaMatrixで注目したいのは、FOMOそのものよりも、FOMOが生まれやすくなった環境です。
ManiaMatrixで読み解くと?
この現象をManiaMatrixの25マスで見ると、中心になるのは、
A×①|序列に安心を求める
です。
これは「人がハマる普遍構造」の中にある、比較・優劣によって自分の位置を確かめたくなる構造です。
人は自分の状態を、絶対値だけで判断しているとは限りません。
「自分はいくら持っているか」だけでなく、
「周りと比べて自分はどこにいるか」
によって安心したり、不安になったりします。
投資では、この比較が非常に起こりやすい。
なぜなら、資産額、投資額、利回り、積立額、年齢など、比較できる数字がたくさんあるからです。
SNSによってそれらが可視化されると、
他人の資産形成を見る
↓
自分の現在地を意識する
↓
差が気になる
↓
「遅れているかもしれない」と感じる
↓
何もしない状態が不安になる
↓
投資を始める
↓
今度は自分の数字を確認する
という循環が生まれます。
ここで面白いのは、投資を始めれば比較が終わるとは限らないことです。
「始めていない人」と比べて安心したあとには、
「もっと積み立てている人」
「もっと資産がある人」
「もっと早く始めた人」
が見えてきます。
比較には、はっきりしたゴールがありません。
だから「追いつけば安心できる」と思って始めた行動が、次の比較相手を生むことがあります。
これが、単なる「投資ブーム」とは違う部分です。
投資対象にハマる前に、“自分の位置を確認すること”に引き込まれる可能性がある。
20代の投資増加を見るとき、ここにSNS時代らしい構造があります。
これは投資だけの話ではない
この「周囲が進んでいると、止まっている自分が不安になる」という構造は、投資だけに起こるものではありません。
転職、資格取得、副業、結婚、住宅購入、筋トレ、英語学習。
SNSでは、他人の「進んだ瞬間」が次々に流れてきます。
転職した。
資格に合格した。
副業で収入が増えた。
結婚した。
家を買った。
ここで注意したいのは、SNSに並ぶのは他人の人生そのものではなく、変化が起きた瞬間が中心になりやすいことです。
何も起きなかった日は投稿になりにくい。
するとタイムラインには、「みんなが前へ進んでいる世界」ができあがります。
その中に長くいると、本当は何も問題が起きていなくても、
「自分だけ止まっているのではないか」
という感覚が生まれます。
だから現代のFOMOは、単なる「流行に乗り遅れたくない心理」と考えるだけでは足りません。
他人の進捗が大量に見えることで、自分の現在地まで相対評価され続ける構造なのです。
投資は、その構造が数字として特に見えやすい領域なのかもしれません。
まとめ
20代の投資参加が広がっている背景には、NISAの拡充や投資環境の変化があります。
しかし人間側に目を向けると、もう一つの変化が見えてきます。
それは、
「投資した方が得だから」だけでなく、「何もしないままでいることが不安になる環境」ができたこと。
SNSによって他人の資産形成が見える。
見えるから比べる。
比べるから自分の位置が気になる。
位置が気になるから、動いていないことに不安を感じる。
FOMOの正体は、単なる焦りではありません。
その奥には、他人との比較によって自分の現在地を確かめ、安心しようとする人間の構造があります。
投資をするか、しないか。その判断自体に正解が一つあるわけではありません。
ただ、「なぜ今、自分は始めなければと思ったのか」と考えてみると、その理由の中には、お金の計算だけでは説明できないものが見つかるかもしれません。
ニュースとして残るのは「若者の投資が増えた」という数字です。
その一歩奥でManiaMatrixが見たいのは、
人は、他人が進んでいるのを見ると、なぜ自分まで動かなければならないように感じるのか。
という問いなのです。